犬の肺動脈狭窄症 ~その1~~浜松市 動物病院~
2016年09月13日
心臓の役割として、
全身から → 右の心臓 → 肺 → 左の心臓 →全身へ
全身から酸素濃度の少ない血液が右心系にもどり、肺動脈を通って肺へ行きます。
肺動脈狭窄症は、
この肺へ行く道である肺動脈が狭くなってしまう心臓病です。 狭いところを流れるので、血流のスピードが速くなりそのせいで(おかげで?)心雑音が聞こえてきます。
(ちょっと脱線・・・一般的に心臓内での血液の流れの速さは1秒あたり0.5~1.0m(0.5~1.0m/sec)。このスピードが2.0m/sec以上ですと聴診にて心雑音として聞こえてきます。ですので心雑音が聞こえた場合、獣医さんは心エコーにて血流速度が2m/sec以上の領域を探す=雑音の原因を把握してるのです。)
肺動脈狭窄症は犬の先天性心疾患の中で2番目に多いと言われてます。 (2014~2016年の3年間で14例ほど診断) 重度の狭窄症例でも症状は一般的に無徴候~軽度で、唯一の症状が失神や突然死です。 飼い主様サイドから気づきにくいのも、特徴の一つです。
診断は容易ですが、治療指針を含めて以下のポイントを、
正確に把握&オーナーさんに説明できるか?が非常に重要になります。
①重症度 (治療の必要性が決まる。軽度~中等度は無治療でOK)
②肺動脈弁の形態 (バルーン弁口拡大術の成績のみならず適応or不適応の判断)
③肺動脈の低形成の有無 (低侵襲のバルーン弁口拡大術の適応か否か?)
④卵円孔開存の有無 (右房と左房との連絡孔が、開存したままでないか?)
⑤三尖弁閉鎖不全症の併発の有無
⑥その他の先天性心疾患との合併の有無
①重症度
肺動脈狭窄症に関して予後と治療を目的としての、重症度を分類する標準的なガイドラインはまだ確立されてませんが、下記の表の表に慣習的に分類されています。
(一般的な肺動脈の血流速度:0.6~1.0m/secほどです。)
病態 | 最大血流速 | 圧較差 | 治療および予後 |
軽度 | 3.5m/sec未満 | 40~50mmHg未満 | 通常は治療を必要としない。 |
中等度 | 3.5~4.5m/sec | 50~80mmHg | 長期的な予後は様々。三尖弁閉鎖不全症の合併は治療が有効あるいは必要とされるケースも |
重度 | 4.5m/sec以上 | 80mmHg以上 | 治療が推奨(下記) |
正常犬:肺動脈血流速度:1.0m/sec程度 (層流波形:中抜け)
重度の肺動脈狭窄症:5.9m/sec → 治療適応
軽度の肺動脈狭窄:3.3m/sec(雑音は明瞭) → 治療の適応なし
②肺動脈弁の形態(肺動脈弁狭窄症は以下の2つの狭窄パターンに分かれます。)
肺動脈狭窄症Ⅰ型(A型):交連癒合、弁輪径は正常であることが多い(狭窄部後部拡張が認められる)
Ⅱ型(B型):弁異形成、弁輪部低形成
両者は相互排他的ではない。
この型を把握しておくことは、外科orインターベンション(カテーテルによる低侵襲の術式)の選択にかかわってきます。
・Ⅰ型(A型)は、開くべき扉の先端がくっついているイメージ。
よってバルーン(風船)を間でふくらませ ることで狭窄を解除しやすい。
・Ⅱ型(B型)は、扉が厚くなって動かないイメージ
よってバルーンでの成績がⅠ型と比べると落ちる可能性がある。(事前にインフォームできる)
さらにこの型で、肺動脈低形成(③で後述)があるとバルーンの適応外になります。
タイプⅠ型(A型) 左右の扉がくっついているように見えますよね。
血液の流れ:右心室の流出路(RVOT)→肺動脈8(PA)
⇨:肺動脈弁
別症例のタイプⅠ型(A型);こっちも肺動脈弁(PV)がくっついて開放してないのが見えると思います。
上2つの子は、バルーン弁口拡大術の効果が期待できる症例ということになりますね。
↑
タイプⅡ(B型)
↓
Ⅱ型(B型) さきほどとは異なり肺動脈弁(PV)が全体的に厚く動いていない。
このタイプは、弁が厚くて硬いのでバルーンでの開放がⅠ型と比べると難しくなります。
③肺動脈の低形成があるか否か?
これはインターベンション(カテーテル治療)の適応か否かを分ける重要なポイントです。
バルーンはいわゆる風船で肺動脈”弁”の狭窄部を広げる=くっついている部分を割く・・・・そんなイメージです。
ですので、肺動脈”自体”が細い状態では、風船を膨らませたぐらいでは広がりません。
したがって肺動脈の低形成(大動脈の径との比較)があるタイプの肺動脈狭窄症は、バルーンの適応ではなく、外科的処置となります。
当チームでも2015年12月に、体外循環併用での右室流出路再建(人工血管を縫い合わせて狭くなってる肺動脈をひろげる )を行いました。(~その2~でお伝えします。)
どうやって評価する?
一般的には大動脈との比較になります。
肺動脈/大動脈比(PA/AO)の正常値=0.80~1.15。よってこの比率が低いほど、低形成(=細い)ということになります。
肺動脈低形成 PA/Ao:0.44 肺動脈蹄形性なし PA/Ao:0.97
バルーン弁口拡大術の適応外症例=外科治療 狭窄が重度ならばバルーン弁口拡大術の適応
④
⑤
⑥